健康診断で不思議な医者に会った話

先日、会社の健康診断があった。
 
都内某所、指定された会場に時間より少し遅れて到着した。
いろんな企業の人達が来て集中的に健康診断を行う施設だった。
受付の時点ですでに混み合っていた。
 
受付をして、名前が呼ばれて検査着に着替えて最初の診断まで
ゆうに1時間は待たされた。
 
その後は割とスムーズに終わり、いよいよ最後の医者の診察を残すのみとなった。
数分待っていたら、名前が呼ばれた。
呼んだのは推定80歳前後の大ベテランのお医者さん。
医者の世界ではあたりまえのこととはいえ少し面食らってしまった。
しかし経験もモノをいう世界なのだから。と自分で自分を宥めた。
 
診察室のドアを閉めて診察カードを渡した。
 
そしてそれを見るやいなや、
「おう、○○さん(俺の本名)、調子はどう?」
と、まるで行きつけの飲み屋のオヤジのような口調で話しかけてきた。
 
「大丈夫です。」
またもや少し面食らったが、落ち着いたふりをして言った。
 
「今どこの病院行ってるの?」
 
「○○病院に行ってます。実家が長野県なので。」
 
この会話にはフェイクが含まれている。
それは読者へのフェイクではなく、事実のフェイクだ。
実際、病院には行っていない。
 
俺は先天性の心臓の病気がある。
冒頭で診察カードをみるなり調子はどうだと話しかけられたのも、きっとその件なのだろう。みんなにしているかもしれないけど。
 
そのため今までに手術は2回しているが、特に日常で行動が制限されるとか、食べ物が制限されるだとかそういったことは全くない。
とはいえ年に1回は経過観察のため病院に足を運んでいた。
 
5年前までは。
 
働き始めてから、年1とはいえ通う余裕がなくなってしまった。
予約のシステムがやや面倒なことと、曜日が限定されるということもある。
さっき表情がこわばっていなかったかな、と心配になりながらも時は流れていく。
 
そして、触診が始まった。
上半身の様々なところに聴診器を当て、じっと耳を済ませる医者。
 
「心臓の音は悪くない。順調ですよ。」
 
そりゃいいはずはないけど、悪くない、という言い方はいつだって心に少し引っかかるものがある。
 
そして、俺は後ろを向き、背中側も診察される。
 
すると医者が、俺の両肩に手をかけ肩甲骨と肩の中間辺りを優しく押し始めた。
「右と左どっちが痛い?」と聞かれる。
正直押し方がソフト過ぎてなんとも言えない部分はあったが、
「右のほうですかねー」と答えた。
右肩のほうがこっているし、妥当な答え方だと思った。
 
そしてまた俺は医者のほうを向いた。

 

すると、医者はそうか、と小さい声でいい、

「あなたは手術したことに負い目を感じている。

責任感があるけど、
そんなに抱えることはない」
 
と解釈できることを突然言い始めた。
 
あっけに取られてしまって、
1対1の場なのに「…俺のことですよね?」と聞いてしまったほどだ。
 
正直、それに似た感情はあるからだ。
 
なぜわかるのだろうか。
 
まぁいろんな人に当てはまる言葉でもあるから、サービスで言っている
だけなのかもしれないけど。
 
そう考えると医者もサービス業だよなぁ。
構造を考えると、医者にネガティブなことを言われると患者はきつい。
 
そして、「病院にいけよ」
と最後に言われ、健康診断は終わった。
 
やっぱり定期健診には行かなくてはな。
先天性の病気なのに健常者と同じように運動して、同じレベルで出来ているというだけで満足しているけど、色々手遅れになってしまってはどうしようもないからなぁ。
 
  
不思議なお医者さんだった。